ロマンはどこだ

ビジネスや社会のフレームを考えるのが好きですが、きっとそういう話は一切書かずに、ふざけたことばかり言っているのだと思います。

NHKの集金と戦い、勝利し、少し申し訳なく思う

新しい家に住み始める際、注意しなければならないことが二つある。
これを見落とすと、せっかくの新居生活が台無しになってしまうので、気をつけないといけない。

一つは水道代の支払いである。

新しい家に住み始め、喜んでいると、そのうちペラっとした請求書が届くのだが、この紙では支払いができない。

「なんだよ。これじゃダメなのかよ」
と思っていると、また1ヶ月後にペラっとした紙が届き、やはり支払えない。

そのうち「なんだ、もともと口座振替だったんだ」

と根拠も印鑑もない、謎の自信が湧いてくる。

その後、”クレジットカード払いへ切替ませんか?”みたいなハガキが来るのだが、関係ないわ~と思って無視していると、それが支払書だったという罠がよくある。


気づけば支払期日が過ぎていて、数日間風呂に入れないかもしれない恐怖と戦うハメになるのだが、そこは水道局。

闇金みたいに「オラオラ、金返せやー」と凄まれることもなければ、
銀行みたいに「お客様、延滞はマズイです。次のご融資に響きます。今すぐにご入金を」とロジカルに脅されることもない。

一週間ぐらいすると、おとなしめの「催促状」が届くので、それを持ってコンビニに行けば、万事解決、花の新居生活である。

 

しかしこれをクリアした後に、もう一つの罠が待っている。


そう、NHKの集金だ。


入居の際、頑張って交渉して下げた家賃も、これが来たら台無しである。

最近オレオレ詐欺の手口が多様化し、手が込んできているという噂をよく耳にするが、NHKの集金も負けず劣らず、かなり進化している。

ネットに載っている一昔前の方法では、とてもじゃないが太刀打ちできない。

以前であれば、とても人の良さそうな年配のおじいさんが、汗をかきながら、すごく申し訳なさそうに集金にきて、同情を誘う、という作戦が一般的であったが、今は少し様子が違っている。


今日来たのも、イケイケのベンチャーで働いていそうな、若い男の方であった。

長身、長髪、イケメン、スーツという出で立ちで、もはやNHKの集金とは思えない。


そう、もこみちだ。

 

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もこみちがNHKの集金に来ている感じだ。

 

ロジックもしっかりしている。

「お客様、NHKの支払いはどうされていますか?」

「NHKは以前引越しをした時に、実家で払うように手続きしたんですけど」

「申し訳ございません、受信料の方は家ごとの集金になりまして」

「はぁ」

「失礼ですが、こちらの賃借人様はどなたになりますか」

「私ですが」

この時点で、インターホンに出てしまったことを割と後悔していた。

京都から引っ越す際、実家に住むことにして、NHKから解放されたのをすっかり忘れていた。

何より、賃借人という言葉をしれっと使うこのもこみち、なかなか手強い。


「であれば、すみません。払っていただかないといけないんです」

「でも、見てないですし、そもそもテレビがないんですよ」
本当だ。
テレビもラジオもwi-fiすらない。

「なんなら部屋の中を見てもらってもいいですよ」

散らかっているが、そんなことを気にしている場合ではない。


「恐れ入ります。テレビの有無に関わらず、電波を受信されている方すべてにお支払いいただくことになっているんです」

「えーっと、じゃあアンテナか何かを取り外せばいいんですか?」


以前どこかで見たことのあるNHK対策をとりあえず口ずさんでみる。

強制的に部屋に電波を受信できなくする方法だ。

どうせ見ないわけだし、見れなくなっても問題はない。


「いえ、ワンセグチューナー付のタブレット端末及びPCも対象になりますので、アンテナを取り外していただいても、受信はされていることになります」

「…はい?」

よくわからないので、根掘り葉掘り聞く。

「………!」

衝撃だった。


さっくりまとめると、テレビがあろうがなかろうが、見ていようが見ていまいが、大体の人が持っているスマホとかPCにはTV機能がついているので、NHKを勝手に受信してますよ~、ということだ。


「こちらにスマートフォンの品番もございますので、ワンセグ対応かどうかすぐにお調べすることもできます」

「はぁ」

電機屋か、お前は。

「今ですと、もう大体ほとんどの機種にTV機能がございますね(ドヤ)」
「ほぅ」
「ですので、」
「あー、一応確認してもらってもよろしいですか?」

これはもうどうにもならないな、と思い始めていたのだが、とりあえず抵抗を試みる。

相手がもこみちだから、という理由だけで簡単に引き下がってはいけない。
おばさんだったら、イチコロなのかもしれないが、残念ながら私はおばさんではない。

 

「メーカーはどちらになりますか?auですか、softbankですか、それともdocomoですか」

「えーと、y-mobileでsimフリーのを使ってるんですけど」

「……、e-mobileですか?」

「いえ、y-mobileです。今持ってきます」

 

電機屋かと思ったが、そこはやはりもこみちであった。

それほど機械に関する知識はないらしい。


部屋にもどり、複数あるスマホのうち、どれを持っていくかを考え、手持ちのスマホで勝負することにした。

念のため、言語設定を英語に切替える。


ドアを開け、全く自信はないものの、ドヤ顔でもこみちにスマホを渡した。

交渉の基本中の基本はハッタリをかますことである。


「どうぞ」
「ありがとうございます。確認させていただきます」
「多分テレビの機能ついてないと思いますけど」
「そう…ですね」


リストに載っていないスマホが出てきて、明らかに動揺している。

しかもメニューは英語だ。画面をスクロールしても、内容がよく分からない。


「確かに、こちらの端末にはテレビの機能がついていないようですね…」

 

 


おっ。

 

 

「あ、パソコンの方も持ってきましょうか?多分見れなかったと思いますけど」

「…えぇ。よろしくお願いします」

チャンスだ。

あれだけ自信に満ち溢れていた、もこみちの表情がいまいちになっている。

 

 

 

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再び部屋に戻り、複数あるパソコンの内、どれを持っていこうか考え、ダンボールに眠っている全く使っていないパソコンを取り出す。


「どうぞ」
「恐れ入ります」
「これもテレビは見れなかったと思うんですけどねぇ」

本当だ。

「メーカーはどちらになりますでしょうか」
「HPです」
「…」

さすがにPCのリストまでは、NHKも作っていないのだろう。

電源をつけることもせず、そのまま返却された。

 

「ありがとうございます。こちらも大丈夫です」

 

どうしたものかといういまいちな表情のまま、チラッと部屋の中を見たので、


すかさず、「あれはモニターです。お持ちしましょうか?」
と言う。


「あぁ、大丈夫です。お時間取らせてしまい、申し訳ございませんでした!」

そして、そのまま帰ってしまった。

 


ふぅ。

 


しかし、なんだか居心地が悪い。

自分が何か悪いことをしてしまった気分だ。


別に生活に困窮しているわけではないし、NHKがなくなっても困るので、支払いもやむなしと思っていたのに。

NHKがもっと色んな人材を想定していれば、自分もしっかり枠の中に収まったのに。

 

いずれにせよ、もこみちには何か埋め合わせしてやらないといけないな。


そんな思いで、今、本屋に来て、ブログをバコバコと打ちながらMOCO'S キッチンのレシピを読んでいる。


Q.E.D.